東京地方裁判所 昭和51年(ワ)3248号 判決
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【判旨】
一本件事故の発生について
1 原告が昭和四七年三月二〇日、東京三菱自動車業販株式会社立川営業所から、被告の製造した本件自動車を購入したことは当事者間に争いがない。
2 <証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 原告は昭和四八年一一月一九日、本件自動車を運転中、タイヤがパンクしたので、スペアタイヤである本件タイヤを取り出し、タイヤ交換をしようとしたが、本件タイヤの空気が不足していたため、タイヤ交換ができず、埼玉県富士見市水子二三五一番地所在富士見石油株式会社スタンドまで本件タイヤを運んで本件タイヤに空気を注入することにした。
(二) 原告は同日午後三時四五分ころ、同スタンドにおいて本件コンプレツサーにより本件タイヤに空気を注入しはじめたが、右空気注入中に突然本件タイヤのチユーブ内縁が全周破裂し、高圧化された空気がタイヤからホイールに向かつて噴出し、ホイールのうちタイヤを保持する部分であるリムに対して瞬間的に強い圧力を加えた。
(三) 本件タイヤにおいては二つ割りリムが採用され、リムも、リムと一体となつているホイール全体も、内側と外側の二つに分かれ、これがボルトで締め付けられていたので、リムに加えられた圧力は内外のホイールを分離する方向に働き、ホイールを締めつけていた本件ボルトを破断し、ホイールをはじき飛ばした。
(四) その結果、右ホイールが原告の額、左手、左足等に衝突し、原告は右ホイールの衝突と、それによる転倒のため、前頭部挫創、左手挫滅創、左前腕開放骨折、左脛骨開放骨折等の傷害を受け、着用中のメガネフレーム一式を破損した。
以上の事実が認められる。<証拠判断略>
二本件事故の原因について
1 原告は、本件コンプレツサーを用いて空気注入を開始する際、コンプレツサーの圧力ゲージを一平方センチメートル当り2.3キログラム(以下空気圧を表示するときは「平方センチメートル当り」を省略する)の位置にセツトした旨を主張し、これを前提として、本件事故は本件タイヤ内の空気圧が被告の指示する2.4キログラム以下の状態で発生したと主張しているものと理解され、<証拠>には、右主張のとおり、空気注入を開始するに際し、圧力ゲージを2.3キログラムにセツトした旨の供述があり、また<証拠>には、本件コンプレツサーは、圧力のゲージを2.3キログラムに合せてあれば、タイヤ内の空気圧が2.3キログラムに達すると自動的に作動を停止する仕組になつており、昭和三九年に本件事故のあつた場所に設置されて使用されていたが、本件事故時まで殆んど故障がなく、本件事故後も継続して使用された旨の供述がある。
しかし、<証拠>によると、事故後における本件ボルトはくびれ変形をしており、その破断面はコーン状(円錐に近い形)で、延性的な一発破壊の形態を呈しているほかは疲労破面(金属的疲労を示す、波うち際の砂のような文様)や初期欠陥(異物の混入や空洞の存在)は認められないこと、被告の乗用車技術センターにおいて同職員宮島正和が被告のテストコースを走行中のLT型式三〇V自動車(本件自動車と同一車名)のうち、一万六〇〇〇キロメートルから二万キロメートルまで走行したものにつき、そのタイヤを取り出して本件事故と同様に空気圧を加え、ボルトの破断を発生させる実験をしたところ、①8.6キログラムないし九キログラムの空気圧でボルトの破断、ホイールの変形が起こり、8.6キログラムより少ない空気圧ではボルトの破断は生じなかつた、②右実験の結果実験に用いたホイールに生じた変形量と本件事故により本件タイヤのホイールに生じた変形量を比較すると、本件タイヤのホイールの方が、実験に用いたホイールに比して外側のホイールにおいて0.12ないし0.22ミリメートル、内側のホイールにおいて0.03ないし0.23ミリメートル厚いにもかかわらず部分によつては実験によるホイールよりも変形量が多い、③右実験に使用されたボルトはいずれも引張強度が二四〇〇キログラム以上のものであり、引張強度がこれより低下すれば八キログラムより低い空気圧でボルトの破断が生じるし、ボルトを著しく強く締めつけ、その締付トルク(回転モーメント)が大きくなればボルトに金属的疲弊を生じ計算上、八キログラムより低い空気圧でボルトの破断が生じることになるが、右実験において、ボルトの引張強度を低下させて2.3キログラムはもちろん、五キログラムの空気圧でボルトの破断を生じさせた場合にもホイールは変形しない、以上の各実験結果が得られた事実が認められる。<証拠判断略>。右事実によれば、本件事故時の本件タイヤの空気圧は八キログラム以上に達していたと推認せざるをえない。
2 してみると、証人田宮実、同黒田実、原告本人の前掲各供述を採用して、本件事故発生時の、本件タイヤ内の空気圧が2.4キログラム以下であつたと認めることはできないものというべく、従つてこの程度の空気圧によつて本件事故が生じたものとして本件ボルトの欠陥あるいは本件自動車又は本件タイヤの設計上の欠陥を推認することもまた困難である。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
従つて、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
(川上正俊 渋川満 福田剛久)